「評判とはちがう。学園は明るく健康的だ」

専門医が園生の心をケア

心道学園は地元かすみがうら市はじめ、地域の皆さんの支援があって運営が成り立っています。さる奇特な精神科医の先生もその一人です。園生の中には心に傷を負ってここにやって来た人もいます。そういう園生のケアのため、先生は毎月欠かさず学園に足を運んでいただいています。

先生は現在、学園から車で1時間弱のところにある精神科クリニックにお勤めです。その合間に学園に来てもらっています。先生が最初に学園を訪れたときは大変驚かれたようです。理由を聞くと、「正直言って、私が学園にかかわる前に聞いたここの評判は決して良くはありませんでした。でも実際に来てみたら、すぐに私の先入観は否定されました。心を病んだ人を含め、園生全員の表情に暗さがない。顔色が良く、きちんと挨拶して礼儀正しい。だから空気がよどんでいない。長年精神科医をしてきた私ですが、初めて目にする光景でした。衝撃的だったと言ってもいい。それで強い関心を持ったのです」という答えが返ってきました。

「相手のすべてを受け入れる」

先生は学園に着くと時間を惜しんで応接室に向かい、園生との1対1の対話に臨まれます。それが問診です。園生の方も先生の来訪を心待ちにしています。先生に聞いてもらいたい話があるのでしょう。中には自分の言いたいことをうまく表現できない園生や同じ話題を何度も繰り返す園生もいます。それでも先生はいつも根気よく最後まで耳を傾けていらっしゃいます。

園生はさまざまな話を先生にぶつけてきますが、先生は一切否定しません。その姿勢にも感心します。大変な忍耐がいるはずです。なぜそんなことを貫けるのか。「心のケア。それは相手のすべてを受け入れることに尽きるからです」。先生のこの言葉は園生を預かる私たちへの戒めにもなります。

 ただ、いくら関心を持ったとはいえ、忙しい時間を割き、園生のケアに親身になってくださるのには、何かほかに理由があるのではないかと考え、ある日、先生に伺ってみました。すると先生の口からこんな話が飛び出しました。

「理想の施設を応援したい」

「私が大学を出て最初に入った病院では入院患者たちは広い部屋でともに寝起きし、お互いに布団の上げ下げを助けあっていました。われわれ医師や看護師も彼らと一緒に野菜や花を育てたり、野球で汗を流したりしていました。開放的で、健康と笑顔に溢れていたのです。もう何十年も前のことですが、当時はどの病院もそんな感じでした。今は患者の権利やプライバシー重視もあって、とてもそうはいきません。ところが心道学園は昔の病院と共通するところが多い。心を病んだ人たちにとって理想の環境なのです。それこそが私がここに通いたくなった、というより応援したくなった理由です」

 園生が規則正しい生活をしていること、園生同士の『共助』が根付いていること、栄養に気を使った食事をしていること、外部から講師を招いてお稽古ごとをしていること…。そうした園の方針が評価されたような気もして、大変光栄に思います。勝手な想像ですが、先生は青春時代の自分をここでよみがえらせているのかもしれません。いずれにしろ園生に温かな眼差しを向けていただいていることに、職員と園生一同、深く感謝しています。

 さて学園の『共助』ですが、介護保険事業に基づいた園内介護事業が好例です。次回のコラムでは、事業の実現に尽力していただいた女性を紹介します。