互助と感謝 共生への道 ─ 心道学園の今の姿

豊かな自然に囲まれた茨城・霞が浦のほとりに「NPO法人心道学園」が開設され、20年以上の月日がたちました。前身の「佛祥院」、さらに遡って静岡県富士市にあった「佛祥庵」から数えると、もう半世紀にもなります。その間、ここは貧困や暴力、心身の障害などに困っている人たちを受け入れ続け、1日の休みもなく自立を支援してきました。今、園生たちは自らの意志で介護の資格とスキルを獲得し、助け合いの道を歩んでいます。そんな新しい学園の姿を園長の合田祥子が紹介します。ぜひお読みください。

園生による園生のための介護「助け合いながら暮らす」

「園生同士、助け合いながら日々を暮らしていく」。心道学園の方針の一つです。

園では食事の用意や掃除、洗濯といった家事、共同作業を園生たちが主体的にこなしています。園職員やボランティアの手も借りますが、まずは「自分たちの面倒は自分たちでみる」が基本。時間も守ります。規則正しい生活こそ自立への第一歩だからです。

園生の中には家事や作業、さらに歯磨きや排せつ、入浴など健康維持に欠かせない用事を自分ではできないほど重い障害を抱える人もいます。そうした園生は他の園生がサポーします。

介護ヘルパーの資格を持つ園生も数名いて、責任者の指導の下で介護にあたっています。彼らは専門学校で介護制度を勉強。適切でスムーズな介護のトレーニングを積み、資格を得ました。だれもが園の指示ではなく、「困っている仲間のために」と自ら志願して通学しました。

介護してもらう園生も大喜びです。ずっと園で顔を合わせてきた相手なので気兼ねなく頼みごとが言えるし、必ず優しく応えてくれるからです。ヘルパー園生の誕生は、介護する方とされる方、両者の身体的負担の軽減につながりました。

ようやく手にした生きがい 飛び交う「ありがとう」

実はヘルパー園生たちは介護保険事業に基づき、園内に設置された「ヘルパーステーション・フラワーガーデン」の従業員でもあります。介護はその仕事という側面もあり、給料ももらっています。使い方は自由。自分の医療費を賄う園生もいれば、お菓子を買ってみんなに配る園生もいます。働いて収入を得る。これも自立への一歩です。

他にも大事なことがあります。「感謝」を知ったのです。園生の多くは家庭や社会から疎外されたか、逃げ出した人たちです。「誰にも必要とされない。居場所がない」と絶望し、園に来ました。

そんな彼らが介護を通じて感謝され、「自分は必要とされている。人の役に立っている」と実感しました。ようやく生きがいを得たのです。介護する園生は「私こそ助けられた」と思っています。

介護される園生も愛情あふれる奉仕に笑顔を取り戻しました。互助の精神は他の園生にも波及し、園内では「ありがとう」が飛び交っています。

「人を助けられる」「見捨てられてはいない」

園生はさまざまな背景、障害の程度、家族との関係、経済的事情などいろいろな問題を抱えていて、実際に自立するのは簡単ではありません。それでも「私には人を助ける力がある」「私は見捨てられてはいない」と、園生全員が生きることに前向きな姿勢を共有しています。

園に来た見学者からよく「どの園生も表情が明るい。返事もはきはきして清々しい。なぜだろう」と、うれしい感想を聞きます。どれも園が教えたのではなく、園生が自然に発している心の表現です。疑問の答えは「感謝に溢れているから」と園では考えています。

〈了〉